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JEWEL

JEWEL

恋はオートクチュールで!1



素材表紙は湯弐さんからお借りしました。

海斗が両性具有設定です、苦手な方はご注意下さい。

(うわぁ、本当に来ちゃったんだ、俺。)

東郷海斗は、目の前にずっと憧れているファッションデザイナー、フランシス=ドレイクが居る事が未だに信じられなかった。
日本を代表するアパレルブランド・TOGOの社長一家の長男として産まれた海斗は、自然とファッションに興味を持つようになった。
9歳の時に渡英し、寄宿学校を卒業した海斗は大学に進学せず、英国王立刺繍学院で刺繍とデザインを学び、卒業後はパリでデザイナーとしてデビューする事を夢見ながら、アルバイトと勉学に明け暮れる日々を送っていた。
デザイナー、作家、音楽家―芸術に携わる人間が稀にプロデビューして脚光を浴びても、それを長く維持する事は難しい。
だからこそ、ファッション界に君臨するフランシス=ドレイクの存在は、世界中からデザイナーを志す者達の憧憬の的となっている。
そんな憧れのドレイクに海斗が声を掛けられたのは、海斗がパリで暮らし始めて半年が過ぎた頃だった。
海斗は、自分が好きな16世紀のファッションと、日本の“カワイイ”文化を融合させたドレスをパリの大手ブランドのコンペティションに応募したが、二次選考で落選した。
(やっぱ、パリは厳しいなぁ・・)
海斗がそんな事を思いながら、家計簿とにらめっこしていると、電話がけたたましく鳴った。
「アロー?」
「カイト=トーゴ―様ですね?わたくし、フランシス=ドレイクのマネージャーをしております、ニコラスと申します。」
「は、はい・・」
「キャプテンが、今週末ヴェルサイユ宮殿にて開催されるファッションショーのスタッフに、あなたを加えたいとおっしゃっています。」
「是非、参加させて下さい!」
こうして、海斗はひょんな事からプロのデザイナーとしてフランシス=ドレイクのファッションショーのスタッフとして参加する事になった。
流石、一流デザイナーが手掛けるファッションショーだけあって、ショーのスタッフやモデルも一流揃いで、海斗は自分がまるで夢の世界の住人になったかのような気分になった。
(俺、こんな所でやっていけるの?)
海斗が所在なさげに会場を歩いていると、彼は一人のモデルとぶつかってしまった。
「すいません・・」
「見ない顔ね、新入りの子?」
淡褐色の髪を揺らし、全身ハイブランドの黒い膝上のワンピース姿のモデルは、そう言うと海斗を見た。
「綺麗な赤毛ね、染めているの?」
「は、はい・・」
「可愛い子だね。特に目がいいね。抉り出して食べちゃいたい。」
「ラウル、ここに居たのか。」
海斗がモデルに怯えていると、そこへダークスーツ姿の男がやって来た。
「じゃぁね。」
(あ~、怖かった。)
「カイト、来たのか!」
「は、はじめまして・・」
「そんなに緊張しなくて良い。君のドレス、斬新なデザインで良かったよ。」
「ありがとうございます!」
ファッションショーの衣装合わせの為、海斗はあるモデルの控室へと向かった。
「失礼します・・」
「どうぞ。」
英国のトップモデルで、今世界中で人気沸騰中のジェフリー=ロックフォードは、金髪碧眼の美男子だった。
彼は洗い晒しのデニムにライダーズジャケットというラフな格好をしていたが、彼の美しさというか、彼の纏っているオーラはそれだけでは半減するものではなかった。
「見ない顔だな、お前。」
「カイト=トーゴ―です。」
「その髪は、地毛か?」
「いいえ、染めているんです。」
「へぇ、そうか。お前、いくつだ?」
「今年で22になります。」
(何この人、距離が近い・・)
海外で長く暮らしていた海斗は、日本人よりも欧米人の方が、パーソナル・スペースが狭いという事は知っていたが、余りにも近過ぎる。
しかも、宝石のような蒼い瞳で見つめられると、何処か落ち着かなくなる。
「あの・・」
ジェフリーは、海斗の顎を掴んで自分の方へと彼を向かせると、その唇を奪った。
(うわぁぁ~!)
海斗はジェフリーから逃げようとしたが、彼に腰を掴まれ、逃げられなかった。
「ん・・」
「可愛いな、もしかして初めてか?」
「何すんだ、この変態!」
「ジェフリー、その顔どうした?」
ジェフリーのマネージャー、ナイジェル=グラハムが親友の控室に入ると、彼は顔に赤い手形のようなものが残っている事に気づいた。
「いやぁ、可愛い子にキスしたら・・」
「あんた、また悪い癖が出たな!」
ナイジェルはそう言ってジェフリーを睨んだ。
「あんたの男癖の悪さで、俺がどれだけ苦労していると思っているんだ?」
「そう怒鳴るな。俺は、“来る者は拒まず”の主義なんでね。」
「あんたって奴は・・」
ナイジェルは溜息を吐くと、黒褐色の髪を掻きむしった。
「それで?あんたの可哀想な被害者は、何処のどいつだ?」
「22歳のキュートな日本人さ。」
「ショーが終わるまで、そいつには手を出すなよ!」
「わかったよ。」
(あ~、何なんだよあいつ!挨拶代わりに舌入れるなんて有り得ねぇだろ!)
海斗はショーの衣装合わせの為、ドレイクと共に衣装部屋へと向かった。
そこにはドレイクの最新作がずらりと並べられていた。
「すげえ~!」
「驚くのはまだ早いぞ。今日のショーには、君が好きな16世紀の衣装からインスパイアされた作品が出るから、楽しみにしておけ。」
「はい!」
世界遺産であるヴェルサイユ宮殿を貸し切ったファッションショーとあってか、各国のメディアが集まり、その様子をネット配信していた。
「おい、37番の衣装は何処だ!」
「わたしのネックレスを出して!」
ステージは大盛り上がりだが、バックステージは殺伐としていた。
「カイト、大丈夫か?」
「はい・・」
海斗は少し頭がボーっとしていると、丁度そこへジェフリーがやって来た。
彼は真紅のマントをイメージしたコートを羽織っており、まるで16世紀の海賊がそのままタイムスリップして来たかのようだった。
「俺に触るな~!」
「あ~あ、すっかり嫌われたな。まぁ、これから長く付き合う事になるから、宜しくな。」
「え~!」
「ジェフリー、もうすぐ出番だぞ!」
「あぁ、わかったよ!」
ショーのトリを飾ったジェフリーは、華麗に鏡の間を歩いた。
ショーが大成功に終わり、海斗はホッと安堵の溜息を吐いた。
ショーの後、ドレイクはパリ郊外にある自宅でパーティーを開いた。
そこには各国の政財界の要人や王族、貴族などが出席し、海斗はその豪華さに目が眩みそうだった。
(この格好、デザイナー失格じゃん・・)
海斗はこの日の為に一張羅のスーツを着ていたのだが、周りの洗練されたファッションを見ていたら、何だか出来の悪い七五三のように見えてしまう。
(どうせなら振袖でも着て行けば良かったなぁ。)
日本人デザイナーだから、自国の民族衣装である着物の事を学んで来た海斗は、友恵が成人祝いの為に贈ってくれた赤地に大牡丹の刺繍が施された大振袖を着てくれば良かったと、今更ながら後悔した。
「うわっ!」
「すいません、お怪我はありませんか?」
「いいえ、大丈夫です。」
ボーっとしていた所為か、海斗は給仕係とぶつかり、スーツがワインで汚れてしまった。
「こちらへどうぞ!」
「ありがとうございます。」
海斗がドレイク邸の部屋でスーツを脱ぎ、畳紙に包んでいた大振袖と帯紐、帯締め、帯と肌襦袢をスーツケースから取り出すと、大振袖に着替えた。
海斗が帯を締めていると、衝立の向こうから部屋に誰かが入って来る気配がした。
「ねぇジェフリー、こんな所でするの?」
「いいだろう?」
(おいおい、こんな所で乳繰り合うなよ!)
衝立の向こうから、恋人達の喘ぎ声が聞こえ、海斗は出るに出られなくなった。
「んもぉ、マネージャーが呼んでる。またね、ジェフリー。」
「あぁ。」
漸く二人の時間が終わった後、海斗が溜息を吐きながら衝立の中から出ると、長椅子には胸元をだらしなく開けたジェフリーの姿があった。
その逞しい胸元には、恋人がつけていたと思われるキスマークが無数に散らばっていた。
ジェフリーは気だるげな視線を海斗に送ると、舐めるように海斗の振袖姿を見た。
「へぇ、似合うなぁ。」
「あんた、まだ居たのかよ!?」
「キスの続きをさせてくれないのか?」
ジェフリーはそう言うと、おもむろに長椅子から立ち上がり、海斗の振袖の身八つ口に手を入れて来た。
「何をする、離せ!」
「ジェフリー、何をしている!」

扉が開き、ナイジェルはそう叫んでジェフリーを海斗から引き離した。


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